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令和の判例
 

自の視点で,旬の判例をご紹介します。

第1 最判令和元年12月17日(ケンタ―プライズ事件)
  裁判所は,労働者が請求しない付加金の支払いを命じることができないとした判例。
【メモ】
・付加金は,違反のあった時から2年(現行法では3年)という期間制限があるが(労基法114条但書),これは,時効ではなく,除斥期間である。
・未払い残業代は,時効中断(現行法では時効の完成猶予)措置により,2年分(現行法下では3年分)以上の請求も可能であったが,付加金は2年(現行法下では3年)に限定される。
・労基法114条本文には「これと同一額の付加金」とあるが,「同一額」は,上限を示しているだけということになる。ここは,日本語表現が的確とは言い難く,非常にわかりにくい。

 

第2 最判令和元年8月27日(遺産価額算定方法事件)
  民法910条の請求権は,積極財産の価額を基準とし,消極財産の控除は不要とした判例。
【メモ】
・遺産分割の対象は積極財産であり,負債(消極財産)は,相続人間で当然分割される。このことから本判決は予想されたものであった。

 

第3 最決令和元年12月10日(控訴申立書不備事件)
  被告人の記名のみがあり署名押印がいずれもない控訴申立書による控訴申立ては無効であるとした判例。
【メモ】
・刑訴規則60条は,「署名押印」を求めており,民事事件よりも手続きが厳格である。

 

第4 最判令和2年3月30日(国際自動車事件) 
  時間給と出来高給の組み合わせである「歩合給」算定過程で減算される「割増金」の定めについて,通常賃金と割増賃金の部分の明確区分性を否定し,基礎賃金に算入すべきとした判例。
【メモ】
・実質的には,「歩合給」算定式を裁判所が変更したのと同じである。

 

第5 最判令和元年7月16日(固定資産価格審査申出棄却決定取消請求事件)
  固定資産課税台帳に登録された価格を不服として固定資産評価審査委員会に審査の申出をした者は,同委員会による審査の際に主張しなかった事由であっても,当該申出に対する同委員会の決定の取消訴訟において,その違法性を基礎付ける事由として,これを主張することが許される。
【メモ】
・取消訴訟の訴訟物は処分(本件では委員会の棄却決定)の違法性一般である。

 

第6 最判令和元年6月3日(交通反則告知書受領拒否事件)
  交通違反(信号無視)の証拠映像が存在するのに,警察官がそのようなものはないと述べたことがあったとしても,書面の受領拒絶(道交法130条但書2号)該当性を否定する事情とはならないとした判例。
【メモ】
・反則者として告知を受けた者は,反則金を支払うか,裁判で争うか,選択の自由がある。書面の受領自体を拒むことによるメリットは見当たらない。告知内容に不満はあっても告知書は受領しろよというのが道交法の建前である。告知書受渡前の警察官の嘘を,書面の受領拒絶の法的効果に結び付ける論理的必然性はなく,最高裁は両者は無関係とする立場を採用した。

 

第7 最決令和元年6月25日(大崎事件)
  吉田鑑定は,死因または死亡時期に関する認定に決定的な証明力を有するとまではいえない,として再審請求を棄却した。
【メモ】
・白鳥決定(最決昭和50.5.20)は,新旧証拠の総合評価によって確定判決の事実認定に「合理的な疑い」を抱かせるだけの新証拠があれば明白性を肯定すべき旨を判示した。

 

第8 最判令和元年7月5日(信義則違反破棄差戻し事件)
  前訴で貸金契約の成立を主張した被告が貸金返還請求に係る訴訟で同契約の成立を否認したのは信義則に反すると判示した判例。
【メモ】
・禁反言(矛盾挙動の禁止)に係る事例判決と位置付けられる。

 

第9 最判令和元年7月22日(平和安全法制整備法事件)
  公的義務不存在確認を求める無名抗告訴訟には,「行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにもかかわらずこれがされようとしている場合」であること(蓋然性の要件)が訴訟要件として必要とした判例。
【メモ】
・差戻し後の東京高判令和2.2.13は,訴えを却下した。

 

第10 最判令和元年8月9日(再転相続事件)
  再転相続人の熟慮期間の起算点は,自己が再転相続の事実を知った時であるとした判例。
【メモ】 
・再転相続の熟慮期間と相続の熟慮期間は別個に進行するということになる。

 

第11 最判令和元年8月27日(オキセピン誘導体事件)
  化合物の医療用途に係る特許発明の進歩性の有無に関し,当該特許発明の効果が予測できない顕著なものであることを否定した原審の判断に違法があるとした判例。
【メモ】
・当業者の予測可能性(発明の容易想到性)の有無は,多角的に検証すべしということ。

 

第12 最判令和元年9月6日(交通事故遅延損害金事件)
  高齢者医療確保法による医療給付により代位取得された不法行為に基づく損害賠償請求権にかかる債務の遅延損害金の起算日は,給付日の翌日とした判例。
【メモ】
・被害者は,保険給付が遅滞なく行われた場合は,独自に遅延損害金を請求できないとされている。
 

第13 最判令和元年9月13日(諫早湾事件)
  潮受堤防排水門の開門請求を認容する判決が確定した後,当該開門請求権(として明示されたもの)が消滅したことのみでは,請求異議事由とならないとした判例。
【メモ】
・国を勝たせた原審の判決理由を是としなかったものだが,権利濫用を持ち出せばなお国を勝たせる余地があることを示唆している。

 

第14 最判令和元年9月27日(受け子の故意事件)
  宅配ボックス利用型の受け子が複数の事件で同一の電話番号の相手と通話していたこと等の事情に照らし,詐欺の故意および共謀の事実を認定した判例。
【メモ】
・関連判例として,最判平成30.12.11および最判平成30.12.14がある。

 

第15 最判令和元年8月9日(死刑確定者への信書一部削除事件)
  当該削除の措置は適法とした判例。
【メモ】
・重大用務処理のために不必要だから削除可という論法である。弊害がないなら削除不可という論法には立たなかったわけである。

 

第16 最判令和2年3月24日(株式譲渡益課税事件)
  株式譲渡の場面では,株式の評価を財産評価基本通達によることはできないとした判例。
【メモ】
・通達は,法規命令ではなく,講学上の行政規則に過ぎない。

 

第17 最判令和2年2月25日(被爆者援護法事件)
  要医療性は,現実に医療行為を必要とする者に対してこれを支給するという,その支給の目的に見合う状態にあることをいう。
【メモ】
・被爆者医療の受給要件は,放射線起因性と要医療性である(被爆者援護法10条1項)。 

 

第18 最判令和2年3月19日(不動産取得税事件)
  共有物分割による土地の取得に係る不動産取得税の課税において,画地計算法を適用する場合は,面積比による按分計算が妥当であり,本件処分(不動産取得税賦課決定処分)は違法でない。
【メモ】
・本件は,固定資産課税台帳に価格が登録されていない土地が兄弟2名に遺贈されて,共有物分割した事案である。

 

第19 最決令和元年11月12日(児童ポルノ製造罪事件)
  盗撮により製造した児童ポルノを基にして,その電磁的記録を他の記録媒体へ記録保存する二次的製造行為も,児童ポルノ製造罪に当たる。
【メモ】
・一次的製造行為者と二次的製造行為者が同一人物の場合の判例である。

 

第20 最判令和元年9月13日(諫早湾水門事件)
  漁業行使権に基づく水門の開門請求認容判決確定後,当該開門請求権が消滅したとしても,当該確定判決が共同漁業権存続期間の経過後の開門継続を命じていたとの事情の下では,当該開門請求権の消滅は請求異議事由とはならない。
【メモ】
・国が負けた珍しい判決である。

 

第21 最判令和元年12月20日(覚せい剤譲渡代金追徴事件)
  被告人が,Aとの間で,覚せい剤100gを代金80万円前払いで譲渡すことを約束したが,覚せい剤譲渡が未遂に終わった事件につき,80万円を追徴してよいとした。
【メモ】
・費消等により没収できないときは追徴する。一般規定は刑法19条の2。

 

第22 最判令和元年9月19日(差押えに係る時効中断要件事件)
  債権執行における差押えによる請求債権の消滅時効の中断の効力が生ずるためには,その債務者が当該差押えを了知し得る状態に置かれることを要しない。
【メモ】
・改正前民法155条は,体裁を変えて現民法154条に引き継がれている。本判例は,現民法の下でも,当然妥当する。

 

第23 最判令和2年1月23日(控訴審取調べ必要事件)
  第1審判決が無罪の場合に,控訴審において自ら何ら事実の取調べをすることなく有罪の判決をすることは許されないという従来の判例を確認した。
【メモ】
・刑訴法400条但書を厳格に解釈すれば,自然と本判決の結論に至る。

 

第24 最判令和2年2月28日(福山通運事件)
  被用者から使用者への逆求償を認めた。
【メモ】
・被用者と使用者のいずれが先に賠償したかで,最終的な負担額に差が出るのは相当ではない。つまり,本判例は,実質的には,使用者の負担部分を認めたのと同じである。

 

第25 最判令和2年6月30日(泉佐野市ふるさと納税事件)
  「募集適正化基準等を定める告示」の一部を地方税法違反として無効と判示した。
【メモ】
・関与の法定主義(地方自治法245条の2)が判断の根拠となっている。法律による行政の原理の一場面であるが,本件は,国対地方公共団体の紛争であり,法律の法規創造力の原理の適用場面そのものとは言い難い。

 

第26 最判令和2年7月21日(リツイート事件)
  リツイートによる著作者人格権の侵害を認め,本件各アカウントに対応する電子メールアドレスの開示を認めた原審の判断を維持した。
【メモ】
・敗訴した被告は米国法人ツイッター社である。現在は,アイルランド法人を相手にする必要がある。

 

第27 最判令和元年8月9日(再転相続事件)
  民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいう。
【メモ】
・甲→乙→丙と再転相続した場合,多くのケースでは,乙は法定単純承認をしたことになる(民法921条2号)。本判例の妥当するケースは限定的である。

 

第28 最判令和元年9月6日(遅延損害金起算日事件)
  後期高齢者医療広域連合は,・・・代位取得した当該不法行為に基づく損害賠償請求権に係る債務について,当該後期高齢者医療給付が行われた日の翌日からの遅延損害金の支払を求めることができる。
【メモ】
・原債権の遅延損害金は,求償債権の元金に組み込まれ,求償債権自体の遅延損害金は原債権弁済時から発生するのと似ているが,それとは別の話である。

 

第29 最判令和2年7月2日(クラヴィス破産事件)
  過年度の過払金の益金計上に係る更正の請求は認められないとした判例。
【メモ】
・過払金を支払った消費者は,貸金業者の破産により,過払金を回収できないこととなった。

 

第30 最判令和2年9月7日(第三者間の債務不存在確認請求事件)
  本件確認請求に係る訴えは,確認の利益を欠く。
【メモ】
・消極的確認請求で,かつ,他人間の法律関係の確認請求であるため,確認の利益が認められにくい事件であったが,原審は確認の利益を肯定していた。

 

第31 最判令和2年10月13日(メトロコマース事件)
  本件退職金に係る相違は不合理であるとまで評価できない(契約社員敗訴)。
【メモ】
・賞与については,同日の大阪医科薬科大学事件参照(アルバイト職員敗訴)。

 

第32 最決令和2年2月25日(控訴取下げ無効事件)
  高等裁判所がした控訴取下げを無効と認め訴訟手続を再開・続行する旨の決定に対しては,これに不服のある者は,3日以内にその高等裁判所に異議の申立てをすることができる。
【メモ】
・本件は,明文規定のない不服申立てを認めた。

 

第33 最判令和2年6月26日(納税義務承継通知事件)
  納税義務承継通知は,納入告知(地方税法13条,18条の2第1項1号)には当たらず,時効中断効を有しない。
【メモ】
・民法改正(施行は令和2年4月)により,時効中断は時効更新ということになった。

 

第34 最判令和2年10月15日(日本郵便事件)
  私傷病による病気休暇を有給とするか否かの相違は不合理である。
【メモ】
・同日付で,東京,大阪,佐賀の3事件の判決があった。大阪の事件では,扶養手当を支給するか否かの相違は不合理であるとした。

 

第35 最判令和2年3月6日(司法書士責任追及事件)
  中間省略登記の方法による不動産の所有権移転登記の申請の委任を受けた司法書士に,当該登記の中間者との関係において,当該司法書士に,直ちに注意義務違反があるとした原審の判断に違法があるとされた事例
【メモ】
・中間省略登記は,現在,法務局では受理してもらえない。

 

第36 最判令和2年3月19日(宅地評点数事件)
  固定資産評価基準により隣接する2筆以上の宅地を一画地として認定して画地計算法を適用する場合において,各筆の宅地の評点数は,画地計算法の適用により算出された当該画地の単位地積当たりの評点数に,各筆の宅地の地積を乗ずることによって算出される。
【メモ】
・土地の価格比ではなく,面積比を採用した。

第37 最判令和2年3月24日(除斥期間起算点事件)
  家屋の評価の誤りに基づきある年度の固定資産税及び都市計画税の税額が過大に決定されたことによる損害賠償請求権に係る民法724条後段所定の除斥期間は,当該年度の固定資産税等に係る賦課決定がされ所有者に納税通知書が交付された時から進行する。
【メモ】
・令和2年4月1日以降は,民法の改正により,除斥期間は消滅時効に改められた。

 

第38 最判令和2年7月30日(GPSストーカー事件)
  ストーカー規制法にいう「住居等の付近において見張り」をする行為に該当するためには,機器等を用いる場合であっても,・・・「住所等」の付近という一定の場所において・・・観察する行為が行われることを要する。
【メモ】
・平成28年の法改正前のストーカー規制法の適用の可否が問題となった。

 

第39 最判令和2年9月3日(相互個人タクシー協同組合事件)
  事業協同組合の理事を選出する選挙の取消しを求める訴えに,同選挙が取り消されるべきものであることを理由として後任理事又は監事を選出する後行の選挙の効力を争う訴えが併合されている場合には,特段の事情がない限り,先行の選挙の取消しを求める訴えの利益は消滅しない。
【メモ】
・先行の選挙に取消事由があれば原則として後行の選挙の招集手続に瑕疵があることになるという理解(瑕疵連鎖説)が前提になった判断である。

 

第40 最判令和2年7月7日(非嫡出母子関係事件)
  平成元年改正法の施行前における嫡出でない子の母との間の分娩による親子関係の成立については,通則法29条1項を適用し,子の出生の当時における母の本国法によって定めるのが相当である。
【メモ】
・旧法例(平成元年改正以前の法例)の解釈が問題となった。

 

第41 最決令和2年9月30日(刑法207条適用事件)
  他の者が先行して被害者に暴行を加え,これと同一の機会に,後行者が途中から共謀加担したが,被害者の負った傷害が共謀成立後の暴行により生じたとは認められない場合に,刑法207条の適用により後行者に対して当該傷害についての責任を問い得るのは,後行者の加えた暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであるときに限られる。
【メモ】
・本判例は,後行者が共謀の上加担した場合に刑法207条の適用を肯定する積極説をとることを前提としている。学説では,山口厚,前田雅英等が積極説を,西田典之,松宮孝明等が消極説を,それぞれ採っていた。

 

第42 最判令和2年3月26日(辺野古埋立て事件)
  公有水面埋立法42条1項に基づく埋立ての承認は,国の機関が行政不服審査法7条2項にいう「固有の資格」において相手方となるものということはできない。
【メモ】
・本判決は,機関訴訟としての適法性を否定し,国土交通大臣の裁決(沖縄県知事の行った埋立承認取消処分を)取消すという裁決)を終局的なものとした。

 

第43 最判令和2年4月7日(執行費用請求事件)
  強制執行の申立てをした債権者が,当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において,当該強制執行に要した費用のうち民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されない。
【メモ】
・本判決は,「費用額確定手続をとらず,別訴で執行費用を請求できるか」につき,否定説を採用したものである。

 

第44 最決令和2年4月16日(ハーグ条約実施法事件)
  裁判所は,ハーグ条約実施法の規定する子の返還申立事件に係る家事調停において,子を返還する旨の調停が成立した後に,事情の変更により同調停における子を返還する旨の定めを維持することを不当と認めるに至った場合は,同法117条1項の規定を類推適用して,当事者の申立てにより,上記定めを変更することができる。
【メモ】
・ハーグ条約実施法の正式名称は,「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」である。

 

第45 最判令和2年7月14日(公務員への求償事件)
  国又は公共団体の公権力の行使に当たる複数の公務員が,その権力を行うについて,共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき,国又は公共団体がこれを賠償した場合においては,当該公務員らは,国又は公共団体に対し,連帯して国家賠償法1条2項による求償債務を負う。
【メモ】
・公務員ごとに求償権の行使が制限され得ることに注意する。

 

第46 最大判令和2年11月18日(参議院議員選挙無効請求事件)
  投票価値の最大格差3.00倍では,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえない。
【メモ】
・林,宮崎,宇賀の3裁判官は違憲宣言判決をすべきとの反対意見を書いた。

 

第47 最大判令和2年11月25日(地方議員出席停止処分取消等請求事件)
  普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は,司法審査の対象となる。
【メモ】
・最大判昭和35年10月19日は判例変更された。

 

第48 最判令和2年9月8日(請負契約相殺許容事件)
  (請負契約が4本ある場合において)各違約金債権を自働債権,各報酬債権を受働債権とする相殺は,自働債権と受働債権とが同一の請負契約に基づくものであるか否かにかかわらず,許される。
【メモ】
・本判決は,破産法72条2項2号の適用例としては初となる。

 

第49 最判令和2年7月9日(逸失利益定期金賠償事件)
  交通事故の被害者が後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において,同人が事故当時4歳の幼児で,高次脳機能障害という後遺障害のため労働能力を全部喪失し,同逸失利益の現実化が将来の長期間にわたるなど判示の事情の下では,同逸失利益は,定期金による賠償の対象となる。
【メモ】
・被害者の事故時の年齢(4歳),後遺障害の内容(高次脳機能障害)および労働能力喪失の程度(全部喪失)の3点が重視された。

 

第50 最判令和2年9月18日(配当要求の時効中断効肯定事件)
  一般の先取特権を有する債権者が配当要求をしたことにより,消滅時効の中断の効力が生ずるためには,上記先取特権を有することが証明されれば足り,債務者が上記配当要求債権について配当異議の申出等をすることなく売却代金の配当又は弁済金の交付が実施されるに至ったことを要しない。
【メモ】
・建物区分所有法上の先取特権は,優先権の順位および効力については,共益費用の先取特権とみなす旨定められている(同法7条2項)。一般の先取特権は,破産法上は,担保権でありながら別除権とはされない(破産法65条2項,98条1項)。

 

第51 最判令和2年12月22日(FOI事件)
  金融商品取引業者等は,引受審査に際して会計監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接した場合には,当該疑義の内容等に応じて,上記監査が信頼性の基礎を欠くものではないことにつき調査確認を行うことが求められている。
【メモ】
・FOI社は,平成21年11月20日に東証マザーズに上場したが,有価証券届出書の虚偽記載により,平成22年6月に上場廃止となった。

 

第52 最大判令和3年2月24日(孔子廟事件)
  市長が市の管理する都市公園内の国交有地上に孔子等を祀った施設を所有する一般社団法人に対して上記施設の敷地の使用料の全額を免除した行為は,憲法20条3項に違反する。
【メモ】
・本判決は,空知太神社事件判決(最大判平成22年1月20日)と同様の判断枠組みに依拠した。

 

第53 最判令和3年3月11日(法人税法施行令一部無効事件)
  法人税法施行令23条1項3号の規定のうち,資本の払戻しがされた場合の直前払戻等対応資本金額等の計算方法を定める部分は,利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当につき,減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出される結果となる限度において,法人税法の趣旨に適合するものではなく,同法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。
【メモ】
・政令が法律違反として無効とされたのは,租税法分野では初の事例と言われる(他の分野では,同様の事例は複数ある。たとえば,薬事法施行規則に関する最判平成25年1月11日等)。

 

第54 最判令和3年5月17日(石綿事件)
  労働者に該当しない者が,労働者と同じ場所で働き,健康障害を生ずるおそれのある物を取り扱う場合に,安衛法57条が労働者に該当しない者を当然に保護の対象外としているとは解し難い。
【メモ】
・労働者でない建設作業従事者との関係における規制権限不行使について,国賠法上の違法性が肯定された。

 

第55 最決令和2年8月6日(財産分与給付命令事件)
  家庭裁判所は,財産の分与に関する処分の審判において,当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の不動産であって他方当事者が占有するものにつき,当該他方当事者に分与しないものと判断した場合,その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認めるときは,家事事件手続法154条2項4号に基づき,当該一方当事者にこれを明け渡すよう命ずることができる。
【メモ】
・本件は,離婚した元夫名義の本件建物に元妻が住んでいて,財産分与の審判で本件建物は元妻に分与されないこととされた場合,家庭裁判所が元妻に本件建物を明け渡すよう命ずることができる,とした判例である。

 

第56 最判令和2年9月11日(反訴に対する訴訟物による相殺の抗弁事件)
  本訴原告が,反訴において,本訴請求債権を自働債権とし,反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁を主張することは許される。
【メモ】
・本訴請求債権は請負契約に基づく請負代金債権,反訴請求債権は目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権であった。

 

第57 最決令和2年9月16日(タトゥー事件)
  タトゥー施術行為は,装飾的ないし象徴的な要素や美術的な意義がある社会的な風俗として受け止められてきたものであって,・・・社会通念に照らして,医療及び保健指導に属する行為であるとは認め難く,医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為には当たらない。
【メモ】
・被告人は無資格医業罪に問われ,略式命令では30万円の罰金だったのが,1審では15万円の罰金に引き下げられ,2審・3審で無罪という経過をたどった。

 

第58 最決令和3年2月1日(エロサイト事件)
  電磁的記録を保管した記録媒体がサイバー犯罪に関する条約の締約国に所在し,同記録を開示する正当な権限を有する者の合法的かつ任意の同意がある場合に,国際捜査共助によることなく同記録媒体へのリモートアクセス及び同記録の複写を行うことは許される。
【メモ】
・本判例は,違法収集証拠の該否,包括的複写の可否,共謀共同正犯の成否も論じている。

 

第59 最決令和3年3月1日(「技術的制限手段」事件)
  Gの上記機能により得られる効果・・・を無効化するF3は,技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムに当たる。
【メモ】
・不正競争防止法2条1項17号の「技術的制限手段の効果を妨げる」の意味が問題となった刑事事件である。

 

第60 最判令和3年5月17日(石綿事件)
  労働大臣が建設現場における石綿関連疾患の発生防止のために労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことは,屋内の建設作業に従事して石綿粉塵に暴露した労働者及び非労働者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法である。
【メモ】
・アスベスト訴訟には,神奈川1陣,東京1陣,京都1陣,大阪1陣の4つがある。
・共同不法行為に関する解釈問題についても,判示している。

 

第61 最決令和2年1月27日(児童ポルノ事件)
  「児童ポルノ」とは・・・実在する児童の姿態を・・・描写したものをいい,実在しない児童の姿態を描写したものは含まない。
   児童ポルノ製造罪が成立するためには,・・・描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることを要しない。
【メモ】
・写真を素材として作成したCGの作成・販売の事案である。  

 

第62 最決令和2年3月24日(死体解剖写真文書提出命令事件)
  司法解剖の写真に係る情報が記録された電磁的記録媒体が民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当する。
【メモ】
・不起訴事件の記録は,民訴法220条4号ホ所定の「刑事事件に係る訴訟に関する書類」に該当するが,3号後段の法律関係文書として提出義務が認められた。

 

第63 最判令和2年10月9日(調査官論文事件)
  事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するとまではいえない。
【メモ】
・プライバシー権と表現の自由の調整につき,比較衡量論を用いたものである。

 

第64 最判令和2年12月15日(一部弁済事件)
  同一の当事者間に数個の金銭消費貸借契約に基づく各元本債務が存在する場合において,借主が弁済を充当すべき債務を指定することなく全債務を完済するのに足りない額の弁済をしたときは,当該弁済は,特段の事情のない限り,上記各元本債務の承認として消滅時効を中断する効力を有する。
【メモ】
・「承認」は観念の通知である。

 

第65 最判令和3年7月19日(会計限定監査役被請求事件)
  会計限定監査役は,計算書類等の監査を行うに当たり,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても,計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば,常にその任務を尽くしたといえるものではない。
【メモ】
・監査役監査においては精査を行うことは想定されていない。
・本件は,使用人の横領を見抜けなかった監査役の責任が問題となった。

 

第66 最判令和3年1月26日(社債利息事件)
  特段の事情がある場合を除き,社債には利息制限法1条の規定は適用されない。
【メモ】
・本件は,破産管財人が提起した過払金返還請求事件である。結果は,破産管財人の敗訴である。

 

第67 最判令和3年1月29日(同僚連続殺人事件)
  原判決は,第1審判決が論理則,経験則に照らして不合理であることを十分に示したものとはいえず,刑訴法382条の解釈適用を誤った違法がある。
【メモ】
・刑訴法382条は,控訴趣意書の必要的記載事項として,「明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるもの」を掲げている。

 

第68 最決令和3年3月29日(祖父母面会交流事件)
  (祖父母は,)子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることはできないし,面会交流について定める審判を申し立てることもできない。
【メモ】
・現在,法制審議会で子の監護についての見直しが議論されている。

 

第69 最判令和3年6月22日(過納税金計算方法事件)
  (過納金は,)法律上の原因を欠いて徴収されたものとなるのではなく,当該滞納分に充当されるべきものである。
【メモ】
・原審は滞納税への充当を否定していたが,この判断は破棄された。

 

第70 最判令和2年1月31日(口頭弁論不要事件)
  上告裁判所が原判決を破棄するに当たり,原審の公判審理に関与していない裁判官が原判決に関与した違法があるという破棄事由の性質,被告事件の内容,審理経過等本件事情の下では,必ずしも口頭弁論を経ることを要しない。
【メモ】
・上告破棄について,刑訴法408条に相当する条文は存在しない。

 

第71 最判令和3年3月2日(違法行為の転換事件)
  補助金適正化法22条に基づくものとしてされた財産の処分の承認が同法7条3項による条件に基づいてされたものとして適法であるとされた事案。
【メモ】
・原告の栃木県は,1審・2審で国に勝訴したが,最高裁で逆転敗訴となった。

 

第72 最判令和3年5月25日(外国判決執行事件) 
  民訴法118条3号の要件を具備しない懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について弁済がされた場合,その弁済が上記外国裁判所の強制執行手続においてされたものであっても,これが上記部分に係る債権に充当されたものとして上記判決についての執行判決をすることはできない。
【メモ】
・懲罰的損害賠償は,我が国の公の秩序に反するが,送達を欠く外国判決の確定は,同公序に反しない。

 

第73 最大決令和3年6月23日(夫婦同氏制合憲決定)
  民法750条の規定及び同条を受けて夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載事項と定めた戸籍法74条1号は憲法24条に違反しない。
【メモ】
・「他者にこうしてほしい」という外的選好は功利計算から排除すべきである(ロナルド・ドゥウォーキン)。

 

第74 最判令和3年6月24日(相続税更正請求事件)
  相続税法32条1号の規定による更正の請求においては,後発的事由以外の事由を主張することはできないのであるから,一旦確定していた相続税額の算定基礎となった個々の財産の価額に係る評価の誤りを当該請求の理由とすることはできない。
【メモ】
・課税庁も,更正の除斥期間の経過後は,そもそも当初申告における評価の誤りを是正する権限がない。

 

第75 最判令和3年7月5日(フォンス事件)
  会社法182条の4第1項に基づき株式の買取請求をした者は,同法182条の5第5項に基づく支払を受けた場合であっても,上記株式の価格につき会社との協議が調い又はその決定に係る裁判が確定するまでは,同法318条4項にいう債権者に当たる。
【メモ】
・株主総会議事録閲覧謄写請求事件である。

 

第76 最判令和2年10月1日(牽連犯罰金刑事件)
  数罪が科刑上一罪の関係にある場合において,各罪の主刑のうち重い刑種の刑のみを取り出して軽重を比較対照した際の重い罪及び軽い罪のいずれにも選択刑として罰金刑の定めがあり,軽い罪の罰金刑の多額の方が重い罪の罰金刑の多額よりも多いときは,罰金刑の多額は軽い罪のそれによるべきである。
【メモ】
・建造物侵入罪(3年以下の懲役又は10万円以下の罰金)と埼玉県迷惑行為防止条例違反(盗撮)の罪(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)が牽連犯の事例である。

 

第77 最判令和3年3月18日(薬品の対面販売合憲事件)
  医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律36条の6第1項及び3項は,憲法22条1項に違反しない。
【メモ】
・要指導医薬品指定の差止め等を国に求める行政事件である。

 

第78 最判令和3年3月25日(配偶者事件)
  配偶者については,死亡した者との関係において,互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者をいう。
【メモ】
・中退共退職金と確定給付企業年金,厚生年金基金の遺族給付金等における「配偶者」概念について判示したものである。

 

第79 最判令和3年3月11日(法人税法施行令違法無効事件)
  株式対応部分金額の計算方法について定める法人税法施行令23条1項3号の規定のうち,資本の払戻しがされた場合の直前払戻等対応資本金額等の計算方法を定める部分は,・・・法人税法・・・の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。
【メモ】
・資本剰余金と利益剰余金が混合している配当がなされた場合,全体をみなし配当としてプロラタ計算を行うべきことも明らかにされた。

 

第80 最決令和3年3月18日(情報開示請求の壁事件)
  電気通信事業者は,その管理する電気通信設備を用いて送信された通信の送信者の特定に資する氏名,住所等の情報で黙秘の義務が免除されていないものが記載され,又は記録された文書又は準文書について,当該通信の内容にかかわらず,検証の目的として提示する義務を負わない。
【メモ】
・通信の秘密(憲法21条2項後段)の保障を重視したものと考えられる。

 

第81 最決令和3年4月14日(弁護士倫理事件)
  弁護士職務基本規程57条に違反する訴訟行為について,相手方である当事者は,同条違反を理由として,これに異議を述べ,裁判所に対しその行為の排除を求めることはできない。
【メモ】
・規程違反を指摘された弁護士は,通常,懲戒処分を恐れて,辞任すると思われる。李下に冠を正さず。

 

第82 最判令和3年4月26日(B型肝炎訴訟)
  HBe抗原陽性慢性肝炎の発症の時ではなく,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症の時が民法724条後段所定の除斥期間の起算点となる。
【メモ】
・現行民法724条では,除斥期間構成は採用されず,消滅時効であることが明示されている。

 

第83 最判令和3年6月4日(被災者支援金事件)
  東日本大震災により被害を受けた世帯が大規模半壊世帯に該当するとの認定の下に被災者生活再建支援法に基づき被災者生活再建支援金の支給決定がされた場合において,当該世帯の居住する住宅の被害の程度が客観的には半壊に至らないもの(一部損壊)であったなど判示の事情の下では,当該決定をした被災者生活再建支援法人は,上記認定に誤りがあることを理由として,当該決定を取り消すことができる。
【メモ】
・授益的行政処分の職権取消しを認めた判例である。

 

第84 最判令和3年6月15日(行政個人情報保護法事件)
  刑事施設に収容されている者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報(本件情報)は,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律45条1項所定の保有個人情報に当たらない。
【メモ】
・本件情報は開示請求の対象となる,ということを肯定した。

 

第85 最決令和3年6月23日(補助金詐取事件)
  人を欺いて補助金等又は間接補助金等の交付を受けた旨の事実について詐欺罪で公訴が提起された場合,当該行為が補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律29条1項違反の罪に該当するとしても,裁判所は当該事実について刑法246条1項を適用することができる。
【メモ】
・補助金等不正受交付罪は詐欺罪の特別規定(減刑類型)ではないことが確認された。

 

第86 最決令和3年6月21日(債務者相続人の買受資格事件)
  担保不動産競売の債務者が免責許可の決定を受け,同競売の基礎となった担保権の被担保債権が上記決定の効力を受ける場合,当該債務者の相続人は,民事執行法188条において準用する同法68条にいう「債務者」に当たらない。
【メモ】
・換価前に免責決定が出たということは,大幅なオーバーローンであった可能性が高い。この場合,通常は,相続人は,相続放棄すると思われる。相続を承認して,買受を申し出るというのは,極めて稀なケースと考えられる。免責許可の決定があった場合,抵当権は20年の消滅時効にかかる(最判平成30年2月23日)。



第87 最判令和3年6月22日(過納金充当関係事件)
  複数年度分の普通徴収に係る個人の住民税を差押えに係る地方税とする滞納処分において,当該差押えに係る地方税に配当された金銭であって,その後に減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の住民税に充当されていたものは,その配当時において当該差押えに係る地方税のうち他の年度分の住民税が存在する場合には,民法489条の規定に従って当該住民税に充当される。
【メモ】
・稚内市長は,過納金は他の年度の住民税に充当されないと主張したが,この主張は認められなかった。

 

第88 最判令和2年3月10日(経過措置事件)
  強制わいせつ罪等を非親告罪とした「刑法の一部を改正する法律」の経過措置として,同法により非親告罪とされた罪であって同法の施行前に犯したものについて,同法の施行の際既に法律上告訴がされることがなくなっているものを除き,同法の施行後は,告訴がなくても公訴を提起することができるとした同法附則2条2項は,憲法39条及びその趣旨に反しない。
【メモ】
・強制わいせつ罪については,法改正前は告訴がないと,捜査の端緒がなかったのではないかとの疑問が生じるが,児童ポルノ規制法違反等別の罪を捜査する中で強制わいせつ罪が発覚した事案のようである。

 

第89 最判令和4年3月18日(山形大学事件)
  使用者が誠実交渉義務違反の不当労働行為をした場合,当該団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないときであっても,労働委員会は,誠実交渉命令を発することができる。
【メモ】
・国立大学法人山形大学が山形県を相手に提起した訴訟の上告審。山形県勝訴。破棄差戻し判決である。

 

第90 最判令和2年7月16日(ろくでなし子事件)
  (わいせつ性を)判断するに当たっては,電磁的記録が視覚情報であるときには,それをコンピュータにより画面に映し出した画像やプリントアウトしたものなど同記録を視覚化したもののみを見て,・・・判断をするのが相当である。
【メモ】
・わいせつ性の判断において,外部事情を考慮する相対的わいせつ概念を否定したと受け止められている。

 

第91 最決令和3年5月12日(準強姦逆転有罪事件)
  ・・・などの事情の下では,第1審が無罪とした公訴事実を原審が認定して直ちに自ら有罪の判決をしても,刑訴法400条ただし書に違反しない。
【メモ】
・本件は,原審で被告人質問が実施されたが被告人が黙秘し,他に事実の取調べが行われなかったという事案である。原審は,第1審判決を事実誤認で破棄していた。

 

第92 最判令和3年7月6日(辺野古事件)
  沖縄県漁業調整規則41条1項に基づく水産動植物の採捕に係る許可に関する県知事の判断は,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められる場合には,地方自治法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当する。
【メモ】
・原告は沖縄県知事,被告は農林水産大臣である。沖縄県知事の敗訴で終わった。

 

第93 最判令和3年7月30日(2度逆転判決事件)
  警察官が上記ビニール袋は同車内になかったのに上記疎明資料を作成して上記各令状を請求した事実の存否を確定せず,その存否を前提に上記各証拠の収集手続に重大な違法があるかどうかを判断しないまま,証拠能力が否定されないとした原判決は,法令の解釈適用を誤った違法があり,刑訴法411条1号により破棄を免れない。
【メモ】
・違法収集証拠排除法則の要件は,違法の重大性と排除相当性である。違法の重大性を認めながら排除相当性を否定した事例は見当たらない,と言われている。

 

第94 最判令和3年6月29日(宅建業法違反事件)
  宅地建物取引業法3条1項の免許を受けない者が宅地建物取引業を営むために免許を受けて宅地建物取引業を営む者からその名義を借り,当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は,同法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものとして,公序良俗に反し,無効である。
【メモ】
・宅建業法の規定が取締法規か強行法規かへの言及はない。

 

第95 最判令和3年9月7日(破棄自判手続違法事件)
  第1審判決について,・・・事実誤認を理由に破棄し,原審において何ら事実の取調べをすることなく,訴訟記録及び第1審裁判所において取り調べた証拠のみによって,直ちに完全責任能力を認めて自判をした原判決は,刑訴法400条ただし書に違反する。
【メモ】
・刑訴法400条ただし書:但し,控訴裁判所は,訴訟記録並びに原裁判所及び控訴裁判所において取り調べた証拠によって,直ちに判決をすることができるものと認めるときは,被告事件について更に判決をすることができる。

 

第96 最判令和4年3月3日(固定資産税事件)
  賦課期日における周辺土地の利用状況による価格変動要因をも勘案して,本件各土地の客観的な交換価値を求めた上で,本件登録価格がこの価額を上回る違法があるか否かを判断する必要がある。
【メモ】
・原審の広島高判令和2年8月7日は破棄差戻しとなった。

 

第97 最決令和3年10月28日(即時抗告肯定事件)
  財産の分与に関する処分の審判の申立てを却下する審判に対し,・・・相手方は,即時抗告をすることができる。
【メモ】
・棄却的な却下についても,不服申立てを肯定している。請求したら支払う羽目に陥るやぶへび審判があり得ることを前提としている。

 

第98 最判令和4年1月18日(組入れ重利否定事件)
  不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は,民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできない。
【メモ】
・債務不履行に基づく遅延損害金については,組入れ重利が肯定されている(大審院判例)。

 

第99 最判令和4年1月20日(コインハイブ事件)
  不正性は,電子計算機による情報処理に対する社会一般の信頼を保護し,電子計算機の社会的機能を保護するという観点から,社会的に許容し得ないプログラムについて肯定される。
【メモ】
・本判決は,不正指令電磁的記録作成罪について,反意図性を肯定したが,不正性を否定した。

 

第100 最判令和4年1月28日(離婚慰謝料事件)
  離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥る。
【メモ】
・実務上,離婚原因慰謝料と離婚自体慰謝料とは区別されてきたが,本判決は区別していない。

 

第101 最判令和4年3月22日(共有物分割と不動産取得税事件)
  複数の不動産を一括して分割の対象とする共有物の分割により不動産を取得した場合における持分超過部分の有無及び額については,分割の対象とされた個々の不動産ごとに,分割前の持分の割合に相当する価格と分割後に所有することとなった不動産の価格とを比較して判断すべきものと解するのが相当である。
【メモ】
・判決による共有物の分割についての課税関係が問題となった。

 

第102 最判令和4年6月14日(氷見市事件)
  懲戒権者の判断は,社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に違法となる。
【メモ】
・本件では,裁量権の逸脱・濫用はないと判断した。

 

第103 最判令和3年11月2日(物損時効事件)
  旧民法724条前段所定の消滅時効は,同一の交通事故により同一の被害者に身体傷害を理由とする損害が生じた場合であっても,被害者が,加害者に加え,上記車両損傷を理由とする損害を知った時から進行する。
【メモ】
・人身傷害に基づく損害賠償請求権と物損に基づく損害賠償請求権とは,訴訟物を異にすることになる。

  

第104 最判令和4年4月19日(評価通達例外事件)
  評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には,・・・評価通達の定める・・・価額(によらないことができる。)
【メモ】
・課税庁が通達と異なる評価方法を採用し,それが認められた。相続税の租税回避失敗事例である。

第105 最判令和4年4月21日(法人税法132条1項事件)
  法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは,同族会社等の行為又は計算のうち,経済的かつ実質的な見地において不自然,不合理なもの,すなわち経済的合理性を欠くものであって,法人税の負担を減少させる結果となるものをいう。
【メモ】
・「不当性」があると主張した国が敗訴した。

 

第105 最決令和2年8月24日(インスリン投与禁止事件) 
  被告人には、母親を道具として利用するとともに不保護の故意のある父親と共謀した未必の故意に基づく殺人罪が成立する。
【メモ】
・被告人は、懲役14年6月に処せられた。 

 

第106 最判令和4年1月18日(遅延損害金の元本組入れ事件)
  不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は、民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできない。
【メモ】
・民法405条は、法定重利の規定である。

 

第107 最決令和4年2月25日(インサイダー事件)
  このような事実関係の下では、・・・167条1項6号にいう「その者の職務に関し知ったとき」に当たるのは明らかである。
【メモ】
・被告人は、証券会社の従業員であった。 

 

第108 最大判令和4年5月25日(国民審査権訴訟)
  在外国民に最高裁判所裁判官の国民審査権の行使を認めない点で最高裁判所裁判官国民審査法は違憲である。
【メモ】
・本判例は、地位確認請求は認めず、違法確認請求のみを認めた。

 

第109 最決令和3年12月10日(管轄移転請求訴訟)
  管轄移転の請求が訴訟を遅延させる目的のみでされたことが明らかである場合には、刑訴規則6条により訴訟手続を停止することを要しない。
【メモ】
・刑訴規則6条但書には「急速を要する場合」のみが明記されているが、本決定はこれを限定列挙でなく、例示列挙と解したことになる。

 

第110 最決令和2年1月23日(婚費事件)
  婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚したとしても、これにより婚姻費用分担請求権は消滅しない。
【メモ】
・最高裁は、いわゆる存続説(離婚後も、離婚時までの過去分の婚姻費用分担請求権は存続する)を採用した。

 

第111 最判令和4年3月24日(人傷一括払事件)
  人身傷害保険金について保険会社が保険金請求権者に対して自賠責保険による損害賠償の支払分も含めて一括して支払う旨の人傷一括払合意をした場合であっても、被害者の加害者に対する損害賠償請求権の額から保険者が人傷保険金の支払により保険代位することができる範囲を超えて自賠責保険金に相当する額を控除することはできない。
【メモ】
・原審(福岡高判令和2年3月19日)は、裁判所は、被害者の加害者に対する損害賠償請求額から自賠金に相当する額を全部控除することができると判じていたが、最高裁により破棄された。

 

第112 最判令和3年1月29日(睡眠薬殺人事件)
  第1審判決に事実誤認があるとした原判決には刑訴法382条の解釈適用を誤った違法がある。
【メモ】
・1審(裁判員裁判)の事実認定が結論として肯定されたが、1審判決も「措辞不適切」と評されている。

 

第113 最判令和4年2月7日(あん摩等法事件)
  あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律19条1項は、憲法22条1項に違反しない。
【メモ】
・「著しく不合理であることが明白」とはいえないことを理由とする。

 

第114 最判令和4年6月17日(福島第一原発訴訟)
  国又は公共団体が、上記公務員が規制権限を行使しなかったことを理由として同項に基づく損害賠償責任を負うというためには、上記公務員が規制権限を行使していれば上記の者が被害を受けることはなかったであろうという関係が認められなければならない。
【メモ】
・損害賠償請求事件と原状回復等請求事件があるが、最高裁はいずれの請求も棄却した。

 

第115 最判令和4年6月24日(ツイッター事件)
  原告の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越するものと認めるのが相当である。
【メモ】
・比較衡量の基準を用いた。

 

第116 最判令和4年10月24日(音楽教室事件)
  レッスンにおける生徒の演奏に関し、音楽教室が本件管理著作物の利用主体であるということはできない。
【メモ】
・音楽教室が原告となって、請求権不存在確認請求の訴えを提起した。結果は、音楽教室の一部勝訴であった。

 

第117 最決令和2年12月7日(自首不成立事件)
  被告人が、自宅で、被害者をその嘱託を受けることなく殺害した後、・・・司法警察員に対し、嘱託を受けて被害者を殺害した旨の虚偽の供述をしたという本件事実関係の下においては、刑法42条1項の自首は成立しない。
【メモ】
・申告内容に虚偽が含まれていても自首を認めた判例として、最決昭和60.2.28と最決平成13.2.9がある。

 

第118 最判令和4年2月15日(大阪市ヘイトスピーチ条例事件)
  大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例2条、5条~10条は、憲法21条1項に違反しない。
【メモ】
・ヘイトスピーチ条例にもいろいろあり、そのすべてが合憲とは限らない。
 

 

第119 最判令和4年4月21日(事実誤認事件)
  原判決は、間接事実を総合した場合に被告人の暴行を認定することができるか否かについて判断を示したものとはいえないから、(破棄差戻し)。
【メモ】
・刑訴法382条は、控訴申立人の行為規範を示す条文であるが、本判決は、東京高裁の原判決に刑訴法382条の解釈適用を誤った違法がある、と明示した。

 

第120 最判令和4年9月8日(丹波市固定資産評価事件)
  評価基準の解釈適用を誤ったことについて、本件委員会の委員に職務上の注意義務違反が認められないとした原審の判断には、国家賠償法1条1項の解釈適用を誤った違法がある。
【メモ】
・違法性の判断は、職務行為基準説(最判平成5.3.11)を維持している。

 

第121 最決令和3年4月21日(飯塚事件第1次再審事件)
  新証拠はいずれも確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるものではないという原々決定の判断を是認した原決定の判断は、正当である。
【メモ】
・事件本人の死刑執行後、その妻が申立てた再審事件についての決定である。

 

第122 最判令和4年5月20日(刑事再逆転判決)
  (原判決は)第1審判決の認定が不合理であるとする説得的な論拠を示していない。
【メモ】
・第1審共謀あり、第2審共謀なし、第3審共謀あり

 

第123 最決令和3年6月28日(一事不再理効決定)
  前訴で住居侵入、窃盗の訴因につき有罪の第1審判決が確定した場合において、後訴の訴因である常習特殊窃盗を構成する住居侵入、窃盗の各行為が前訴の第1審判決後にされたものであるときは、前訴の訴因が常習性の発露として行われたか否かについて検討するまでもなく、前訴の確定判決による一事不再理効は、後訴に及ばない。
【メモ】
・公訴事実との関係で一罪と評価し得る余罪が訴訟の前後にわたって行われた場合に、一事不再理効がどの時点に行われた余罪にまで及ぶか(一事不再理効の時間的範囲)が問題になった。

 

第124 最決令和4年6月20日(記録閲覧謄写請求事件)
  保佐開始の審判事件を本案とする保全処分の事件において選任された財産の管理者が家庭裁判所に提出したその管理すべき財産の目録及び財産の状況についての報告書は、上記保全処分の事件の記録には当たらない。
【メモ】
・原審東京高裁は、保佐開始の審判前の保全処分の申立人は「第三者」であることを理由に、即時抗告を不適法として却下したが、最高裁は実質判断を下した。

 

第125 最判令和4年9月13日(長門市消防長事件)
  本件処分が違法であるとした原審の判断には、分限処分に係る任命権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。
【メモ】
・原告は、約9年間で30人に対し80件のパワハラ行為をしたと認定されている。

 

第126 最判令和5年3月10日(熊本総合運輸事件)
  新給与体系は実質的に、旧給与体系の下で通常の労働時間の賃金であった基本歩合給の一部を名目のみを本件割増賃金に置き換えて支払うことを内容とする賃金体系であり、本件割増賃金は、通常の労働時間の賃金の部分をも相当程度含むと解さざるを得ず、時間外労働等の対価の部分が明確である等の事情も窺われないから、その支払は、労基法37条の割増賃金の支払とはいえない。
【メモ】
・固定残業代の割増賃金該当性という論点に係る判例である。関連判例多数。

 

第127 最判令和4年4月28日(令状違法発付事件)
  被疑者に対して強制採尿を実施することが「犯罪の捜査上真にやむを得ない」場合とは認められないのにされた強制採尿令状の発付は違法であり、警察官らが同令状に基づいて強制採尿を実施した行為も違法であるが、・・・判示の事情の下では、強制採尿手続の違法の程度はいまだ重大とはいえず、同手続により得られた尿の鑑定書等の証拠能力を肯定することができる。
【メモ】
・令状担当裁判官の判断ミスが明確にされている。


第128 最判令和4年12月12日(建物賃貸借機関保証事件)
・約定解除権条項は、消費者である賃借人と事業者である保証人の各利益の間に看過し得ない不均衡をもたらし、当事者間の衡平を害するものであるから、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものである。
・明渡擬制条項は、消費者である賃借人と事業者である保証人の各利益の間に看過し得ない不均衡をもたらし、当事者間の衡平を害するものであるから、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものである。
【メモ】
・大逆転判決である。

 

第129 最大判令和5年1月25日(衆議院小選挙区割合憲事件)
  衆議院小選挙区選出議員の選挙区割りは、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず、上記規定が憲法14条1項等に違反するものということはできない。
【メモ】
・宇賀克也裁判官が反対意見を述べた。

 

第130 最決令和3年8月30日(医療観察法逆転判決事件)
  原決定には、同法(医療観察法)42条1項、64条2項の解釈適用を誤った違法がある。
【メモ】
・医療観察法の審判では、①疾病性、②治療可能性、③社会復帰阻害要因が審理される。本件はアルコール依存症の患者が対象者となっていた。

 

第131 最判令和4年7月14日(労災保険求償請求弁済事件)
  自動車損害賠償責任保険の保険会社が国の上記請求権の行使を受けて国に対して上記保険金額の限度でした損害賠償額の支払は、有効な弁済に当たる。
【メモ】
・労災保険は、求償請求に積極的であり、事実関係・証拠関係を精査せずに過失割合も決め打ちで請求してくるので、うかうかしていると、被害者が置いてきぼりになる。

 

第132 最決令和4年8月16日(作業報奨金差押え事件)
  刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律98条の定める作業報奨金の支給を受ける権利に対して強制執行をすることはできない。
【メモ】
・許可抗告の申立人は詐欺の被害者であるようであり、被害救済を重視すれば強制執行肯定に傾くが、作業報奨金は出所後の当座の生活資金であるから、再犯防止・社会防衛の観点からやむを得ないというべきか。

 

第133 最判令和5年1月30日(発信者情報開示請求事件)
  特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該権利の侵害が改正省令の施行前にされたものであったとしても、法4条1項に基づき、当該権利の侵害に係る発信者情報として、上記施行後に発信者の電話番号の開示を請求することができるというべきである。
【メモ】
・改正省令に経過規定が置かれていないことが遡及適用の根拠の1つにあげられている。

 

第134 最判令和5年3月6日(課税仕入れ区分事件)
   課税対応課税仕入れとは、当該事業者の事業において課税資産の譲渡等にのみ対応する課税仕入れをいい、課税資産の譲渡等のみならずその他の資産の譲渡等にも対応する課税仕入れは、全て共通対応課税仕入れに該当すると解するのが相当である。
【メモ】
・事業会社の敗訴。事業会社にとっては、労多くして、実りなき裁判であった。

 

第135 最決令和3年6月28日(ディオバン事件)
  薬事法66条1項の規制する特定の医薬品等の購入・処分等を促すための手段としてされた告知といえるか否かは、当該告知の内容、性質、態様等に照らし、客観的に判断するのが相当である。
【メモ】
・1審から3審まで、全部無罪という事件である。

 

第136 最判令和4年10月6日(取立訴訟供託事件)
  マンションの建替え等の円滑化に関する法律2条1項4号のマンション建替事業の施行者が同法76条3項に基づく補償金の供託義務を負う場合において、上記補償金の支払請求権に対して複数の差押命令が発せられ、差押えの競合が生じたときは、上記施行者は、上記補償金について、同項及び民事執行法156条2項を根拠法条とするいわゆる混合供託をしなければならない。
【メモ】
・2審は混合供託は許されないと判断していた。

 

第137 最決令和4年10月6日(財産開示執行抗告事件)
  民事執行法197条1項2号に該当する事由があるとしてされた財産開示手続の実施決定に対する執行抗告においては、債務名義の正本に表示された金銭債権である請求債権の不存在又は消滅を執行抗告の理由とすることはできない。
【メモ】
・違法執行については執行抗告において、不当執行については請求異議の訴え等において救済を図るものとするのが、法の基本的な考え方である。

 

第138 最決令和4年12月5日(迷惑防止条例事件)
  カメラを構えるなどした本件行為は・・・「人を著しく羞恥させ、人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」に当たる。
【メモ】
・カメラを構えれば既遂、撮影までは要しないとした。

 

第139 最判令和4年12月8日(辺野古埋立て事件)
  地方自治法255条の2第1項1号の規定による審査請求に対する裁決について、原処分をした執行機関の所属する行政主体である都道府県は、取消訴訟を提起する適格を有しない。
【メモ】
・沖縄県の原告適格が否定された。

 

第140 最判令和4年12月13日(通知処分事件)
  健康保険組合が被保険者に対して行うその親族等が・・・被扶養者に該当しない旨の通知は、健康保険法189条1項所定の被保険者の資格に関する処分に該当する。
【メモ】
・最高裁は、審査請求期間を徒過していたから取消訴訟も不適法であるとして、訴えを却下した。

 

第141 最判令和4年12月26日(財産分与附帯申立て事件)
  離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合において、裁判所が離婚請求を認容する判決をするに当たり、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の一部につき、財産分与についての裁判をしないことは許されない。
【メモ】
・控訴審は、現時点で、原告の上記医療法人に対する貢献度を直ちに推し量り、財産分与の割合を定め、その額を定めることを相当としない特段の事情がある、としていたが破棄差戻しとなった。

 

第142 最決令和5年5月24日(株式非流動性評価減事件)
  DCF法によって算定された本件各評価額から非流動性ディスカウントを行うことができる。
【メモ】
・原審維持の決定である。
 

第143 最判令和5年7月11日(経産省職員事件)
  本件判定部分(トイレ使用に係る部分)は、裁量権の範囲逸脱または濫用で違法となる。
【メモ】
・逸脱と濫用は区別しない。

 

第144 最判令和元年12月24日(追加出資事件)
  無限責任社員が合資会社を退社した場合において、退社の時における当該会社の財産の状況に従って当該社員と当該会社との間の計算がされた結果、当該社員が負担すべき損失の額が当該社員の出資の価額を超えるときには、定款に別段の定めがあるなどの特段の事情のない限り、当該社員は、当該会社に対してその超過額を支払わなければならない。
【メモ】
・人的会社では、退社の自由が保障される。それと本件とは別問題である。

 

第145 最決令和5年1月30日(刑事確定訴訟記録法事件)
  地方検察庁に属する検察官が区検察庁の検察官の事務取扱いとして保管記録の閲覧に関する処分をした場合、当該区検察庁の対応する簡易裁判所は、刑事確定訴訟記録法8条1項にいう「保管検察官が所属する検察庁の対応する裁判所」に当たる。
【メモ】
・東京簡易裁判所の原決定が破棄差し戻された。

 

第146 最判令和5年7月20日(名古屋自動車学校事件)
  労働契約法20条・・・にいう不合理と認められるものに当たる場合・・・の判断に当たっては・・・基本給及び賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて同上所定の諸事情を考慮することにより・・・不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。
【メモ】
・本判決は、原審の「基本給が定年前の基本給の60%を下回る限りで違法」と認めた判断を破棄差戻ししたものである。 

 

第147 最決令和4年7月27日(携帯還付請求事件)
  被押収者が各押収物の還付を請求することは、権利の濫用として許されない。
【メモ】
・動画データの対象者の名誉・人格権が、還付請求者の所有権に優越するとの判断である。

 

第148 最判令和5年5月9日(周辺住民原告適格事件)
  大阪市長がした納骨堂の経営又はその施設の変更に係る許可について、当該納骨堂の所在地からおおむね300m以内の場所に敷地がある人家に居住する者は、その取消しを求める原告適格を有する。
【メモ】
・行政事件訴訟法9条の解釈・適用(当てはめ)が問題となった。

 

第149 最判令和5年6月27日(教員酒気帯び運転事件)
  本件全部支給制限処分に係る県教委の判断は・・・社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとはいえない。
【メモ】
・最高裁は原審判決を破棄して、宮城県の退職金全額不支給処分を支持した。

 

第150 最判令和4年7月19日(宮古島給水条例事件)
  給水条例16条3項は、水道事業者である市が水道法15条2項ただし書きにより水道の使用者に対し給水義務を負わない場合において、当該使用者との関係で給水義務の不履行に基づく損害賠償責任を負うものではないことを確認した規定にすぎず、市が給水義務を負う場合において、同義務の不履行に基づく損害賠償責任を免除した規定ではない。
【メモ】
・宮古島の宿泊施設経営者らが宮古島市を相手取って提起した訴訟である。

 

第151 最決令和5年2月1日(管財人やらかし事件)
  破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻しについて上記別除権を有する者との間で交渉し、又は、上記不動産につき権利の放棄をする前後に上記の者に対してその旨を通知するに際し、上記の者に対して破産者を債務者とする上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときは、その承認は上記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有する。
【メモ】
・この管財人は、その後、善管注意義務違反で賠償責任を負わされたのか、気になる。

 

第152 最判令和5年2月21日(金沢市庁舎前広場事件)
  金沢市庁舎前広場における集会に係る行為に対し金沢市庁舎等管理規則5条12号(特定の政策、主義又は意見に賛成し、又は反対する目的で個人又は団体で威力又は気勢を他に示す等の示威行為を禁止する趣旨の規定)を適用することは、憲法21条1項に違反しない。
【メモ】
・適用違憲が争点の事件である。

 

第153 最判令和5年3月2日(強制執行違法有効事件)
  執行処分が、・・・強制執行の停止の期間中にされたものであったとしても、そのことにより当該執行処分が当然に無効となるものではない。
【メモ】
・動産執行の事案である。珍しい。

 

第154 最判令和5年5月19日(遺言執行事件)
  遺言により相続分の指定を受けた共同相続人に対してその指定相続分に応じた持分の移転登記を取得させることは、遺言の執行に必要な行為とはいえず、遺言執行者の職務権限に属しない。
【メモ】
・遺言執行者に選任されたものの、「相続させる」遺言により遺産分割が完了していると、遺言執行者は何もやることがないという事態に遭遇する。

 

第155 最判令和5年3月9日(マイナンバー事件)
  行政機関、地方公共団体その他の行政事務を処理する者が、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律に基づき、特定個人情報の収集、保管、利用又は提供をする行為は、憲法13条の保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものではない。
【メモ】
・行政の行為の違憲性が争われているが、実質的には法令の違憲性がテーマとなった、といえる。

 

第156 最決令和5年10月26日(合併反対通知事件)
  XがY社に対して本件委任状を送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である。
【メモ】
・委任状は「指示」に過ぎないのか、「通知」たる性質も持つのか、が問題となった。

 

第157 最判令和5年3月24日(直接主義違反事件)
  第1審において、事件が1人の裁判官により審理された後、判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が民訴法254条1項により判決書の原本に基づかないで第1審判決を言い渡した場合、全部勝訴した原告であっても、第1審判決に対して控訴をすることができる。
【メモ】
・わかりにくい判示である。趣旨は、民訴法254条1項1号に反するからではなく、民訴法249条1項に反するから手続法違反として控訴できる、と言いたいのであろう。

 

第158 最決令和4年2月14日(実行の着手肯定事件)
  本件うそが述べられ、被告人が被害者宅付近路上まで赴いた時点では、窃盗罪の実行の着手が既にあったと認められる。
【メモ】
・典型的なオレオレ詐欺事案であるが、うそがすり替えの隙を作らせるものだからとの理由で、詐欺罪ではなく窃盗罪が問題となっている。

 

第159 最判令和4年3月8日(だいにち堂事件)
  不実証広告規制を定める景表法7条2項は、憲法21条1項・22条1項に反しないとした。
【メモ】
・アスタキサンチン関連商品の優良誤認表示が問題になった。

 

第160 最決令和5年3月29日(電子記録債権事件) 
  第三債務者が差押命令の送達を受ける前に債務者との間で差押えに係る金銭債権の支払のために電子記録債権を発生させた場合において、上記差押えに係る金銭債権について発せられた転付命令が第三債務者に送達された後に上記電子記録債権の支払がされたときは、上記支払によって民事執行法160条による上記転付命令の執行債権及び執行費用の弁済の効果が妨げられることはない。
【メモ】
・小切手に関する判例の最判昭和49年10月24日も参照。

 

第161 最判令和5年11月6日(CFC事件)
  本件に租税特別措置法施行令を適用することが・・・委任の範囲を逸脱するものではない。
【メモ】
・CFCとは、特定外国子会社等のことである。

 

第162 最判令和4年6月9日(公訴時効事件)
  他人の物の非占有者が業務上占有者と共謀して横領した場合における非占有者に対する公訴時効の期間は、単純横領罪の時効期間である。
【メモ】
・「業務上」は加減的身分である。

第163 最判令和5年9月4日(辺野古埋立て事件)
  法定受託事務に係る申請を棄却した都道府県知事の処分がその根拠となる法令の規定に違反するとして、これを取り消す裁決がされた場合において、都道府県知事が上記処分と同一の理由に基づいて上記申請を認容する処分をしないことは、地方自治法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当する。
【メモ】
・地方自治法245条の7第1項:各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき・・・は、・・・必要な指示をすることができる。
 

第164 最大判令和5年10月18日(参議院議員選挙違憲訴訟)
  令和4年7月10日に行われた参議院議員通常選挙当時、・・・投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず、上記規定が憲法14条1項等に違反するに至っていたということはできない。
【メモ】
・宇賀克也裁判官は、反対意見を書いた。

 

第165 最大決令和5年10月25日(性同一性障害特例法違憲決定)
  生殖不能要件(4号)を違憲と判断する一方、外観要件(5号)については判断せず、破棄差戻しとした。
【メモ】
・性別変更の審判の可否をめぐる争いである。

 

 

  

 

 

 


 

 

 

 

 


  

 

 

 

 

【コーヒーブレイク】

Q.土日祝日に相談できる弁護士事務所が見当たりません。平日は仕事で私の都合がつきません。どうしたらよいですか。

A.土日祝日を営業日としている法律事務所は少ないと思いますが,予約をすれば土日祝日でも対応する法律事務所は多いです。平日に連絡を入れて,土日祝日の法律相談の予約を入れるようにしましょう。そして,相談日に持参する資料を予め問い合わせておくと,法律相談で的確なアドバイスをもらえるでしょう。土日でもなかなか都合がつかない方は,電子メールで問い合わせてみるという方法も考えられます。とにかく自ら動けば,必ず道は開けます。食わず嫌いにならず,法律事務所の門を敲いてみてください。

 

判例との戦い方

  • 1.判例の不当性を主張し判例変更を求める
  • 2.判例の射程範囲を限定し,本件はその外にあると主張する
  • 3.判例の前提(社会的事実等)が変化し,本件に妥当しないと主張する
  • 4.裁判例に過ぎないと主張する
  • 5.判例が妥当するものとしたうえで,それを乗り越える理論を打ち出す

1.判例の不当性を主張し判例変更を求める 

メリット・デメリットを比較衡量して決断

 判例変更は、実際に例がありますが、その数は非常に少ないと言わざるを得ません。

 すなわち,勝率を考えると、あまり明るい希望は持てません。判例変更は,最高裁の仕事なので,原則として3回裁判をすることになります。事案にもよりますが,費用は,訴訟費用,弁護士費用等を足せば,最低でも100万円くらいはかかるでしょう。経済的には見合わない戦いとなる可能性があります。

 それでも判例変更に挑むかどうかは,当事者の思いに掛かっています。正義を貫くため,経済的合理性をかなぐり捨てて,判例変更に挑むことには十分に価値があります。人はパンのみにて生きるものではないからです。

 しかし,判例変更以外にも判例と闘う方法はあります。あえて困難な道を選ぶ必要はないのです。次の2以下もご覧ください。

2.判例の射程範囲を限定し,本件はその外にあると主張する

判例との事案の違いを徹底的に検討する

 判例は、具体的な事実関係を基に作られます。

 同じような事件なら,別の事件にもその判例は妥当するのが原則です。しかし,厳密には全く同じ事件というものは存在しえないので,事件の具体的事実が異なれば,当該判例は,本件には妥当しない(当てはまらない)と主張する余地がありあます。

 判例の理論を検討し,そういう理屈なら射程範囲はここまでとなるはず,と妥当範囲を画定し,本件には妥当しないと主張することは,判例を真正面から否定するものではなく,裁判所には受け入れられやすい戦い方ということになります。 

3.判例の前提が変化し,本件に妥当しないと主張する

今の判例は変えなきゃと思うのよね。

 たとえば,最大決平成25年9月4日は,非嫡出子の相続分を差別した民法の規定は違憲と判断した判例ですが,これは平成7年の最大決を変更したものです。

 この判例変更の背景事情としては,婚外子の増加という社会的事実があったと言われています。社会的事実が変化すれば国民感情が変化し,国民感情が変化すれば,社会規範も変化するというのは当たり前のことです。

 このような事情の変化をうまく指摘できると,判例変更もあり得ることになります。あきらめない姿勢が,本件のような判例変更に結び付いたといえるでしょう。

それでも法的紛争にお困りなら

代表弁護士の吉田誠です。
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 判例のある分野で,判例と闘うには,膨大なエネルギーが必要です。弁護士の手を借りて,挑むべき困難のハードルを少しでも下げることをお勧めします。

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